お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 とても穏やかな死に顔を晒すアガレスに、僕は魔術を施した。
このまま氷漬けにするのは、なんだか忍びなくて。
凍った皮膚や臓器を元に戻しながら、僕は目に滲む涙を瞬きで誤魔化した。
ここで泣くのは、人類(僕達)のために命を捧げてくれたアガレスに失礼だから。

「手伝います、お兄様」

 そう言って、リディアは僕の隣に腰を下ろす。
目にいっぱいの涙を溜めつつも泣かない彼女は、懸命に魔術を行使した。
────間もなくして作業は終わりを迎え、アガレスの遺体は綺麗になる。
でも、僕達は誰一人として動けなかった。
ただただアガレスの顔を眺めて、じっとしているだけ。

「……皇国騎士団に来てもらって、アガレスと学園長を運び出そう。父上に連絡してくるから、少し待っていておくれ」

 『念のため見張っておいてほしい』と頼んでくるレーヴェン殿下に、僕達は首を縦に振る。
そして、ゆっくりと立ち上がった。
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