お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「他に道はなかったのかな……」

 考え得る限り、最善の判断をしたのは分かっている。
仮に共存可能だったとしても、他の人達に受け入れられるとは限らないから。
迫害とまではいかずとも、白い目を向けられるのは間違いないだろう。
何より、アガレスは『魔王様には逆らえない』と言った。
それはつまり……『人類を滅ぼせ』と命じられれば、従うしかないということ。

 いつ寝返るか分からない存在を傍に置くのは、危険すぎる。
監視するにしたって、人材や物資は無限じゃないし……どのような待遇を受けるか、分からない。

 ちょっと考えただけでもどんどん湧いてくる不安要素を前に、私はそっと目を伏せた。
生きて幸せになるというのが、アガレスにとってこれほど難しいことなのかと思うと、切なくて。
『感情論だけじゃ、どうにも出来ないんだな』と痛感する中────コンコンッと部屋の扉をノックされる。
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