お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「夜中に突然ごめん、リディア。ちょっと色々考えていたら、眠れなくて」

「いえいえ、構いませんよ。私もちょうど、夜更かしを決意していたところなので」

 『同じく寝付けなかった』と明かし、私は目元を和らげた。
なんだか、安心してしまって。
『嗚呼、一人じゃないんだな』と肩の力を抜く中、ルーシーさんは紅茶を一口飲む。

「……アガレスのことなんだけどさ」

「はい」

 出来るだけいつも通り相槌を打つ私に、ルーシーさんはどこかホッとしたような素振りを見せた。
恐らく、少し緊張が和らいだのだろう。

「本来のシナリオ……というか、ゲームではああいう奴じゃなかったの。本当に凄く邪悪で、傲慢で、無礼で……人を人とも思わない残虐性を持っている。私達のことなんか、ただの食料としか思っていない」

 ティーカップを握る手に力を込め、ルーシーさんはグッと唇を噛み締める。
と同時に、こちらを見上げた。
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