お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「でも────今日、アガレスの本心を聞いて……こいつはきっと狂うしかなかったんだなって、思った。そうしないと、自分が壊れちゃうから……元は本当に優しい奴(良い奴)だったんだよね」

 半ば自分に言い聞かせるようにして呟き、ルーシーさんは顔を歪める。
桜色の瞳をうんと潤ませながら。

「リエートといい、アガレスといい……私は本当にダメだね。相手の本質を全然見れてない……いつも、色眼鏡を通して見ちゃう」

 知っているが故の苦悩を吐露し、ルーシーさんはそっと目元に触れた。

「私が知っているのは、あくまでその人の一面だけ……全部じゃないって、分かっていた筈なのに」

 『知った気になっちゃう』と嘆くルーシーさんに、私はどう声を掛ければいいのか分からず……一先ず、席を立つ。
そして、彼女の隣に腰を下ろすと、横から優しく抱き締めた。
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