お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「ありがとう。私が持つと、絶対に巻き込んじゃうからさ」

「えっ?」

「まあ、見ていれば分かるよ」

 口で説明するのは面倒なのか、ルーシーさんは『ほら、行くよ』と促してきた。
先頭を歩く彼女に釣られるまま、私も空き教室を出る。
と同時に────ルーシーさんは真っ赤になった。
比喩表現でも何でもなく、本当に……。

「ち、血……!?」

「違う、ペンキ。この子にぶつかって、掛かっちゃったの」

 そう言って、ルーシーさんは前方で倒れる男子生徒を示す。
よく見ると、彼の手にはペンキの缶が。

「す、すみません!ちゃんと前を見ていなくて……!」

「いや、大丈夫です。それより、怪我はありませんか?」

 焦ったように顔を上げる男子生徒へ、ルーシーさんは手を伸ばした。
が、ペンキのことを思い出し、慌てて服や体を綺麗にする。
『光の乙女』の能力である浄化を応用して。
『ああいう使い方もあるのか』と感心する中、ルーシーさんはすっかり元通りになった。
ついでに床や壁も。
< 362 / 622 >

この作品をシェア

pagetop