お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「ルーシーさん……!」

 反射的に彼女の名前を叫び、私は風魔法を展開した。
生身じゃとても間に合わないし、今は両手が塞がっているから。
『ルーシーさんの体を傷つけないように』と注意しつつ風力を調整し、一旦彼女を跳ね飛ばす。
そう、トランポリンのように。

 焦っちゃダメよ、私。
まずはルーシーさんの体勢を整えないと。
着地はそれから。

 リエート卿ほど風の扱いが上手くない私は、『少しずつ高度を落としていって、ルーシーさん自身に着地を』と考える。
それが一番安全で、確実だから。

「ルーシーさん、落ち着いて着地体勢に……」

「────こんなところで、何をやっているんだ?」

 聞き覚えのある声が耳を掠め、私は勢いよく後ろを振り返った。
すると、そこには兄の姿が。
なんなら、リエート卿まで一緒に居る。
『助かった!』と安堵する私は、慌てて彼らの手を引っ張った。
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