お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「実はルーシーさんが階段から、落ちてしまって……!とりあえず上に避難してもらったのですが、見ての通り着地が……!」

「あー、それであんな格好に」

 『それは災難だったな』と言い、リエート卿はポンポンと私の背中を叩いた。

「もう大丈夫だから、安心しろ。ここから先は俺に任せておけ。よく頑張ったな」

 ニッと笑って一歩前に出るリエート卿は、下から何かを掬い上げるようにして手を動かす。
すると、柔らかい風が巻き起こり、ルーシーさんの体を包み込んだ。
かと思えば、ゆっくり……本当にゆっくり階段の踊り場へ降ろす。

 あれはクライン公爵家に転移した際、使っていたものね。
エレベーターみたいに安全で、驚いた記憶があるわ。

 無事に着地したルーシーさんを見下ろし、私はホッと胸を撫で下ろす。
『やっぱり、リエート卿の風魔法は素晴らしいな』と思いながら。
< 367 / 622 >

この作品をシェア

pagetop