お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 見るからに優しそうな公爵夫人を一瞥し、私はそっと目を伏せた。
知らなかったとはいえ、安易に接触を図ろうとしたことが悔やまれて。
『もっと慎重に行動するべきだった』と反省する中、洋間へ通されて暖炉の前に案内された。
また、暖かいココアと毛布も支給される。

「あったかい……」

 悴んだ手や震えていた足が解れ、私はホッと息を吐き出した。
隣の椅子に座る小公爵も同じく、肩の力を抜いている。
が、視界の端に私の姿を捉えると、身を硬くした。

「……」

 手元のココアに視線を落とし、黙り込む彼はキュッと唇に力を入れる。
────と、ここで公爵が身を乗り出した。

「それで、何がどうなってあんな事態になったんだ?」

 どこか重苦しい口調で話を切り出す公爵に対し、小公爵は言い淀む。
居心地悪そうに身を竦める彼の前で、私は顔を上げた。

「あの────私が悪いんです。小公爵(・・・)の気に障るようなことを言ってしまったから……」

 嘘にならないよう気をつけながらも、『彼は悪くない』と庇う。
だって、小公爵の境遇を考えたら責めるのは可哀想で。
きっと、私が余計なことを言わなければこんなことにはならなかっただろうから。
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