お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「リディア嬢は逆にちょっと緩み過ぎかな?悪役なんだから、もっとシリアスにね」

 『他人の心配をしている場合じゃない』とでも言うように、レーヴェン殿下は苦言を呈する。
『あと、衣装もちょっと乱れているよ』と注意する彼に、私は目を剥いた。
慌てて黒いローブに手を掛け、ドレスのようにシワを伸ばす。

「教えていただきありがとうございます、レーヴェン殿下」

「どういたしまして。それより、もうセリフを覚えたのかい?さっきの練習で、他の役の子にこっそり教えていたよね」

「え、ええ。記憶力はいい方なので」

 ────リディアが。

 とは言わずに、ニッコリと微笑んだ。
『一度、見聞きしたことは基本忘れないのよね』と苦笑を零し、なんだか居た堪れない気分になる。
だって、凄いのは私自身じゃないから。

「へぇー。それは凄いね。でも、もう他の役の子に教えちゃダメだよ。それだと、練習にならないからね」

 口元に人差し指を当てながら、レーヴェン殿下は『本番で忘れてしまった時だけ、教えてあげて』と言った。
ご尤もな意見を前に、私はただただ首を縦に振ることしか出来ない。
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