お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 困っている人を見掛けたらつい助けちゃう癖、直さないと。
今回のように、巡り巡って困るのはその人自身になってしまうかもしれないし。

 『自重しよう』と考える中、レーヴェン殿下の号令で練習は再開した。
が、やはり何度も止まってしまう。
ルーシーさんのダンスや転倒によって。

 基本、ダメ出しやアドバイスは後でまとめてやることになっているため、今はとにかく“通しでやり切ること”を目標にしている。
そのため、強制的に演技を中断しないといけない言動は皆の心身を少しずつすり減らしていた。
おかげで、現場は少しピリピリした空気に。

 わざとではないから、大目に見てほしいけど……『いいものを作りたい』という想いの裏返しかと思うと、強く言えない。
何より今のところ不満は出ていないし、皆気持ちを抑え込んでいるようだから、刺激しないのが一番だろう。
下手に注意して仲間割れにでもなったら、目も当てられないわ。

「じゃあ、一回休憩を挟もうか。十四時まで、自由にしてていいよ」

 煮詰まっている空気を感じ取ったのか、レーヴェン殿下は『リフレッシュしておいで』と促す。
すると、キャスト達は我先にと空き教室を出ていった。
『他クラスに行こう』とか、『軽くお茶しよう』とか言い合いながら廊下の奥へ消えていく。
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