お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「じゃあ、お願いしようかな」

 素直に厚意を受け取り、ルーシーさんはレーヴェン殿下の手に自身の手を重ねた。
かと思えば、こちらを向いて明るく笑う。

「先にアドバイスを聞かせてよ」

「はい」

 コクンと大きく頷き、私はローブの裾を持って駆け寄った。
そして、身振り手振りを交えながら色々説明する。

「ここのステップは、このくらいで充分です。ドレスの裾で足元は隠れていますから、多少手を抜いてもバレません」

「あっ、確かに」

「あと、ターンの時は力を抜いてください。自分で回ろうとしなくて、いいんです。殿下が上手くリードしてくれますから」

「ふふふっ。責任重大だね」

「あと、こことここは一歩前に出てまた下がるくらいの温度感で問題ありません。無理に見本の通りにやろうとしなくて、大丈夫です」

 自分の知っているダンス知識を総動員して、私は『楽に踊り切る方法』を伝授した。
と言っても、ステップを多少誤魔化す程度のもので労力はあまり変わらないだろうが。
何より、このような方法を取れるのは偏にお相手役のレーヴェン殿下が上手だから。
それも、群を抜いて。
これがもし他の人なら、こうもいかないだろう。
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