お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「では、リディア嬢のアドバイスをもとに一回踊ってみようか。実際にやってみないと、分からないこともあるだろうし」

 『さあ、行こう』と言って、レーヴェン殿下はルーシーさんの手を引いた。
緊張した面持ちの彼女をエスコートし、部屋の中央までくるとこちらに目で合図する。

 あっ、音楽。

 直ぐに殿下の意を汲んだ私は、アナログコードを操作した。
『これでいいのかしら?』と思案する中、無事音楽は掛かる。

「失敗してもいいから、まずは踊り切ろう」

「はい」

 嫣然と顔を上げ、ルーシーさんはレーヴェン殿下のリードに沿ってステップを踏み始めた。
まだ動きも表情も硬いが、今のところミスはない。
『凄い、ルーシーさん』と感動する私を他所に、音楽は止まる。

 あら、もう終わってしまったのね。
まあ、ダンスシーンはほんの数分程度だし、仕方ないか。

 『一曲丸々踊っていたら、時間がね』と肩を竦める中、レーヴェン殿下は足を止めた。
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