お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 キャストだからといって、裏方仕事を全て放棄するのはどうかと思い、慌ててステージに駆け寄る。
そして手伝いを申し出るが、あっさり断られた。
『お願いですから、休んでいてください』と懇願され、私は渋々引き下がる。
ありがた迷惑になってはいけない、と思って。

 でも、ここまで拒絶されると少し悲しい……。

 『私って、嫌われているのかもしれない』と落ち込み、ステージを見上げる。
忙しく動き回るクラスメイト達をぼんやり眺めていると、

「あっ、リディア嬢」

 と、レーヴェン殿下に声を掛けられた。
何やら焦っている様子の彼は、小走りでこちらにやってくる。

「どうかなさったんですか?」

 不穏な気配を感じ取り問い掛けると、レーヴェン殿下は困ったように眉尻を下げた。

「実は────ルーシー嬢の姿が、どこにも見当たらないんだ。もう練習開始まで、五分もないのに」

「!?」

 『ルーシーさんのことだから、早めに来て練習しているだろう』と思っていた私は、目を剥く。
だって、彼女の性格を考えると遅刻や無断欠席は有り得ないから。
『もしかしたら、練習場所を間違えたのかも』と思い立ち、私は扉へ足を向けた。
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