お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 途中まで紳士的な対応をしてくれていた小公爵を思い出しつつ、私は居住まいを正す。

「それより、リディア()の出生について教えていただいても、よろしいですか?」

 話題を逸らすついでにずっと気になっていたことを尋ねると、公爵夫妻はハッと息を呑んだ。
『そういえば、ニクスが……』と小公爵の発言を思い返す二人の前で、私は慌てて弁解する。

「実は以前から、気になっていて……周囲からの対応が、よそよそしかったものですから。腫れ物に触るよう、と言いますか……」

 小公爵の発言が原因ではないことをアピールしつつ、私は『いい加減、理由を知りたい』と主張した。
すると、公爵夫妻は互いに顔を見合わせてゆらゆらと瞳を揺らす。

「……そう、ね。もう全て話してしまった方が、皆のためかもしれないわ」

「ルーナがそう言うなら……」

 タンザナイトの瞳に憂いを滲ませながらも、公爵は応じる姿勢を見せた。
かと思えば、ゆっくりと過去のことを語り出す。
深い深い海の底へ沈んでしまいそうなほど、低い声で。
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