お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「わ、私って……本当に悪役向いてないのね……」

「はい!」

 力いっぱい頷くアマンダに、リディアはトドメを刺される。
胸を押さえて蹲る彼女の前で、私は一つ息を吐いた。
『だから、いつもそう言っていたでしょう』と言う代わりに。

「えっ?えっ?リディア様!?一体、どうしまし……」

「アマンダ、リディアのHPはもう0よ」

 ポンッとアマンダの肩に手を置き、私は小さく首を横に振る。
『もう手遅れだ』と示す私の前で、彼女は目を白黒させた。

「きゅ、急になんですの!?それに呼び捨て……」

「────今回のことは水に流してあげるから、しっかり反省するように!あと、リディアをそんなに慕っているなら、もう少しこの子の趣味に寄り添ってあげて!」

 これ以上の長話は御免なのでアマンダの言葉を遮り、捲し立てた。
そしてリディアを無理やり立たせると、手を引っ張る。
『ほら、歩いて歩いて』と指示を出しながら、私は後ろを振り返った。

「じゃあ、また後でね!」

 アマンダ達に笑顔で挨拶し、私はこの場を後にする。

 根はいい子達みたいで、良かった。
話を聞く限り、リディアのことが好きすぎて暴走しちゃったようだし。
あと、多分シナリオの力も働いていたのかな……?
もし、そうならより一層気を引き締めないと。
アマンダ達の行動すら制御する強い力だとすれば、本番当日もアクシデントに見舞われるだろうから。

 シナリオにあった事故の光景を思い浮かべ、私は警戒心を強める。
『リディアには、後で相談しよう』と思いつつ、とりあえず一階のホールへ急いだ。
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