お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「そのような娘より、私の方がずっと王子様に相応しい。さあ、今すぐ考え直してください」

「申し訳ないが、私の心は既に彼女のものだ。君を選ぶことは出来ない」

「何故です?私はその娘より、役に立ちますよ。ほら」

 天井に向かって手を伸ばし、私は風魔法と氷結魔法を同時に発動する。
まるで渦を巻くような吹雪に見舞われる天井を前に、観客達は『おお……!』と声を上げた。
二属性の魔法をこうやって混ぜ合わせるのは、珍しいからついつい反応してしまったらしい。

「私は誰よりも強く、偉大で美しい魔女です。それでも、外見しか取り柄のない娘を選ぶと言うのですか」

 胸元に手を添えてレーヴェン殿下に迫り、私は魔法を解除した。
フッと止まった吹雪を前に、レーヴェン殿下は立ち上がる。

「そういう君は何故、私を好きになってくれたんだい?」

「それは貴方が清く、優しく、美しい青年だからです」

 脚本通りに一歩前へ出て、私は両手を広げた。

「実験に失敗して醜い姿となってしまった私を、慰めて下さったのは貴方だけ。だから、どうか私を選んでください」

「すまない。やはり、君の気持ちには応えられない」

 ルーシーさんの肩をそっと抱き寄せ、レーヴェン殿下は困ったように笑う。
────と、ここで兄とリエート卿がガッツポーズをした。
『よくやった、王子!』とでも言うように。
< 389 / 622 >

この作品をシェア

pagetop