お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「お、王子様……!」

 床に倒れたレーヴェン殿下へ駆け寄り、ルーシーさんは涙ぐむ。
ここ数週間の特訓の成果を見事発揮し、ボロボロと泣き始めた。
『す、凄い!ルーシーさん!』と感心しつつ、私は再び両手を上げる。

「一人だけ生き残るのは、辛かろう。直ぐにそなたも王子のところへ送ってやる」

「きゃー!誰かー!」

 レーヴェン殿下に上から覆い被さり、ルーシーさんは助けを呼んだ。
すると、舞台袖から侍女役や執事役の子達が現れ、私に攻撃を繰り出す。
かなり控えめに。

「こ、この魔女め……!」

「お姫様には近づけませんよ!」

「ふんっ……小癪な真似を」

 こちらも魔法で応戦……しているように見せかけながら、数歩後ろへ下がる。
と同時に、天井を見上げた。

 ルーシーさんの話によれば、終盤で照明が落ちてきて怪我を負うのよね。
だから、注意して見ておかないと。
< 391 / 622 >

この作品をシェア

pagetop