お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『こういうフラグは折るに限る』と思いつつ、暫く使用人役の子達と交戦を繰り広げる。
────と、ここでルーシーさんがレーヴェン殿下を抱き締めた。

「嗚呼、王子様……どうか、目を開けてください。私はまだ告白のお返事も出来ておりません」

 膝の上にレーヴェン殿下を載せ、ルーシーさんはポロポロと涙を流す。

「もし、もう一度お話出来るなら……私は貴方様に全てを捧げます」

 レーヴェン殿下の頬に手を添え、ルーシーさんはそっと顔を近づけた。
それを合図に、暗転。

 あっ、そろそろかしら?

 ある一点を見つめながら、私は魔法の発動準備に入った。
と同時に、照明はつき────

「王子様はお姫様の口付けにより、目を覚ましました」

 ────ルーシーさん目掛けて、落下する。
このまま放っておけば、十秒もしないうちに大事故へ繋がるだろう。
少なくとも、笑い話では済まされない筈。
だから────私は風魔法で照明を一度、跳ね飛ばした。
『早くどこかに固定しないと』と思案する中、劇はいつの間にか魔女()を倒すシーンへ入る。

「魔女よ、そこまでだ。これ以上、君の横暴を許す訳にはいかない」
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