お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 ホッと息を吐き出す私は、死んだフリのまましばらく待機。
『やり切った』という達成感に見舞われる中、ステージは暗転し、予定通り舞台袖へ引っ込んだ。
エンディングとなる舞踏会のダンスシーンを眺めながら、おもむろに仮面を取る。

 基本公演は一日一回だけだから、今日はもうおしまい。
自由時間に入る。

 『でも、その前に照明のことを伝えないと』と思案しつつ、音楽に耳を傾けた。
間もなくして劇は終わりを迎え、カーテンコールへ。
皆の頑張りが実ったおかげか、一回目の公演はまさに大盛況だった。
拍手に包まれて下ろされた幕を前に、私は慌ててレーヴェン殿下とルーシーさんの元へ向かう。

「あの、ちょっとよろしいですか?」

 これからゲームのイベントや来賓の対応で忙しい二人を引き止め、私は曖昧に笑った。
意味ありげに天井を見上げ、二人に照明のことを気づいてもらうよう動く。

「実は劇中に上のものが落ちそうになって……とりあえず固定はしましたが、一時的なものですので早めに手を打ちたく」

「あー……なるほど。前に倒れる筈のところを後ろに倒れたのは、そういうことか」

 魔女が倒されるシーンのことを言っているのか、レーヴェン殿下は納得したように頷いた。
その隣で、ルーシーさんは『やっぱり、こうなったか』と苦笑い。
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