お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「ありがとう、リディア。一人で気を張って、大変だったでしょ」

「いえ、全然大丈夫でしたよ。まあ、やっぱり緊張はしましたけど」

 一歩間違えれば大事故に繋がるため、私は『内心ヒヤヒヤしました』と明かした。
まだ激しく脈打つ心臓を前に、チラリと視線を上げる。

「それより、二日目以降の公演でこういったトラブルはないんですよね?」

 事前に教えてもらった情報を思い浮かべつつ、私は『念のための確認』という意味合いで問い掛けた。
すると、ルーシーさんは間髪容れずに首を縦に振る。

「うん、そう。トラブルは初日だけ。残り三回の公演は何事もなく、終わる筈だよ」

 『だから、安心していい』と述べるルーシーさんに、私は安堵の息を吐いた。
────と、ここでずっと沈黙を守ってきたレーヴェン殿下が口を開く。

「もしや、二人は今日のトラブルを事前に知っていたのかい?これも、ルーシー嬢のギフトの能力?なら、今度からは私にも言っておくれ」

 『出来得る限りの対策は取る』と意気込むレーヴェン殿下に、ルーシーさんは目を剥いた。
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