お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「何も出来なかったのだから、これくらいやらせておくれ」

「うぐ……その言い方は狡い」

 ギュッと胸元を握り締め、ルーシーさんは『反則……!』と叫ぶ。
そして、何かを堪えるように両目を瞑った。
かと思えば、いきなり真顔に戻り、コホンッと一回咳払い。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「よろしくお願いします。あっ、とりあえず下ろしておきますね」

 さすがに照明をそのまま放置していく訳にはいかないため、固定用の氷を全て冷気に変えた。
と同時に、落ちてきた照明を風で受け止め、ゆっくり下ろす。
やっぱり私のコントロールでは不十分で、少し傷を付けてしまったが……レーヴェン殿下に『問題ない』とのお言葉を頂く。

「それじゃあ、二人ともまた明日。学園祭を楽しんで」

 床に置いた照明を一瞥し、レーヴェン殿下は小さく手を振った。
『ニクス達によろしくね』と言う彼に、私達はコクリと頷く。
一先ず一階のホールから出ようと通行口を通り、廊下に出た。
────と、ここで兄やリエート卿に囲まれる。
『待ってました』と言わんばかりに私達の手を引く彼らは、人気のない場所へ誘導してきた。
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