お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「お話、ありがとうございました。そろそろ時間ですので、お先に失礼します」

 イベント開始時刻のことを気にしているのか、ルーシーさんは早々に踵を返す。
父達の進捗具合を聞いて焦ったのか、それとも単に気合いが入っているのか、彼女は足早に生徒会室を出ていった。
一応、まだ時間に余裕はあるというのに。

「なあ、今回の任務はルーシーに一任するんだったよな?」

 パタンと閉まった扉を見つめ、リエート卿は頬杖をつく。
どこか心配そうな雰囲気を漂わせる彼に、私はそっと眉尻を下げた。

「はい。未来予知によると、ルーシーさん一人で任務をこなしていたようなので。下手に介入するのは、危険と判断しました。幸い、危害を加えられるような場面はないそうですし」

「じゃあ、俺達は本当に何も出来ないなぁ」

「そうですね……こうなったら、普通に学園祭を楽しむしかないと思います」

 『ルーシーさんもそれを望んでいますし』と言うと、リエート卿は小さく頷いた。
歯痒い気持ちを押し殺すように軽く伸びをして、立ち上がる。
と同時に、目を剥いた。

「あっ……リディアの個人発表のやつ、もうすぐかも」

「「「!!」」」

 ガバッと勢いよく掛け時計に視線を向け、私の家族は慌てて扉へ向かう。
それはもう鬼気迫る勢いで。
普段おっとりしている母さえも目を光らせ、素早く廊下に出た。
かと思えば、直ぐにどこかへ行ってしまう。
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