お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「美人さんは大変ですね」

「えっ……?」

「一生懸命隠してらっしゃいますけど、滲み出るオーラが段違いですよ」

 心の底からそう思い、私は容姿を褒めちぎった。
本当はもっと言いたいくらいだが、ヒロインの言動を心掛けているため断念。
ただ、心の中の声までは制御し切れなかった。

 グローブまで嵌めて徹底的に肌を隠しているのが、いいよね!
禁欲的で、逆に唆られるというか!
しかも、フィンガーレスだし!

 中指に引っ掛ける形のグローブを見つめ、私は『オシャレ〜』と心の中で呟く。
────と、ここでフィリアは真っ赤になりながら下を向いた。

「う、嘘をついている訳ではなさそうね……」

 独り言のつもりかボソリと呟き、フィリアは口元を押さえる。
そしてしばらく悶々とすると、おもむろに顔を上げた。
どことなく緊張した面持ちでこちらを見据え、フィリアは慎重に言葉を紡ぐ。

「本当は最後まで知らないフリを貫こうと思ったけど、貴方────私のことを知っているでしょう?」

「!!」

 突然核心を突かれ固まる私に、フィリアは呆れたような笑みを浮かべた。
『分かりやすいにも程があるでしょう』とでも言うように。
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