お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「またリディア関係か……」

 『はぁ……』と深い溜め息を零し、呆れ返る私は一先ず観客席へ向かった。

「あら、前の方じゃなくていいの?」

「あっちはオークション参加者の席です。ほら、全員番号札を持っているでしょう?」

 『ただ観戦するだけならこっち』ということを説明し、私は後方の立見席へ誘導した。
案外素直に従うフィリアは壁を背に、ステージの方をじっと見つめる。

「ねぇ、あれってただのブレスレット……よね?」

「……そうですね」

「どうして、あんなに競売が長引いているの?」

 通常競売は余程の人気商品でもなければ、一分と経たずに終わる。
なので、不思議がっているのだろう。
『あのブレスレットにそれほどの価値があるのか?』と。

「アレを作ったのが、人気のある生徒だからですよ」

「えっ?たったそれだけで、あんな金額に?」

 『人間の文化に疎い私でも大金って、分かるわよ?』と言い、フィリアは困惑を露わにした。
その間にも競売は進んでいき、やがて一人……また一人と落札を諦めていく。
でも、ある二組だけは絶対に番号札を下ろそうとしなかった。

「二億金貨」

「二億一千万金貨」

「二億二千万金貨だ」

 到底ブレスレットにつくことはないだろう金額に、さすがの私も驚く。
いくらリディアの手作りとはいえ、そこまでして手に入れたいか?と。
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