お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 いや、ちょっと待って!?ニクス、貴方はもう貰っているでしょ!
両親に分けても、余る程度には!
だから、さっさと諦めなさいよ!?

 二組のうちの一つであるグレンジャー公爵家を見つめ、私は『何やってんの!?』と頭を抱えた。
『リディアラブにも程がある』と呆れる中、ニクス達は勝負へ出る。

「五億金貨」

 二億の倍はある金額を提示し、彼らはゴクリと喉を鳴らした。
恐らく、それが今動かせる最大金額なのだろう。
対するお相手はと言うと、

「────じゃあ、十億金貨で」

 涼しい顔で、更にその倍の金額を口にした。
まだまだ余裕のありそうな彼を前に、ニクス達はガクリと項垂れる。
すっかり意気消沈しながら番号札を下ろし、素直に敗北を認めた。
────と、ここで司会者が声を上げる。

「えー……これ以上の金額はもう出なさそうなので、リディア・ルース・グレンジャーの作品は十億金貨で落札となります。番号札二番の方、おめでとうございます」

 困惑しながらも何とか仕事をこなし、司会者は────レーヴェンに向かって、拍手した。
それを合図に、会場内は祝福の声で溢れる。
ようやく幕を閉じた、札束の……いや、金貨の殴り合いに感動を覚えているのかもしれない。
< 417 / 622 >

この作品をシェア

pagetop