お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「ルーシー、私は貴方のことが大好きなの。だから────死んでほしくない。少しでも、生存率を上げたいのよ」

 そう言うが早いか、フィリアは私の手に妖精結晶をねじ込んできた。
『いや、まさかの力技!?』と驚いていると、彼女はそっと眉尻を下げる。

「許されるのであれば私もハデスの討伐に加わりたいけど、妖精の掟でそれは禁じられている。私達の力は大きすぎるから、たとえ世界のためだろうと……友人のためだろうと、他種族の諍いに介入出来ない」

 力になれない現状を憂いながら、フィリアは強引に妖精結晶を握らせてきた。
かと思えば、私の手を上から包み込む。
まるで、『手放さないで』とでも言うように。

「これが私の出来る精一杯なの。せめてもの手向けだと思って、受け取ってちょうだい」

「フィリア……」

 懇願にも近い声色で頼み込まれ、私は迷いを抱いた。

 正直、妖精結晶を五個も貰えるのは有り難い。
リディアも含めて全員に行き渡るから。
魔王戦で活躍すること、間違いなしだろう。
だから、ここは受け取るべきなんだけど……打算だらけで近づいた分、申し訳ないというか。
しかも、これフィリアの血だし。
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