お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 正直、とても有り難い申し出だけど……二人は無理してないかしら?
だって、それぞれリディアには複雑な感情を抱いているのでしょう?
ソレを押し殺して接するのは、かなり辛いと思うけど……。

 などと思いつつ、私は月の瞳とタンザナイトの瞳を交互に見つめる。

「公爵と夫人の負担になるのでは?」

「そんなことないわ。最初はギクシャクしちゃうかもしれないけど、リディアと親子になるまでの道のりだと思えば全然平気よ。むしろ、楽しいわ」

「そもそも、リディアと親子になることを『負担』とは呼ばない。それは幸福と呼ぶんだ」

 力強い口調でハッキリ否定してくる公爵夫妻に、私は心を打たれた。
泣きたいような……嬉しいような気持ちでいっぱいになり、ギュッと胸元を握り締める。

「そこまで仰っていただけるのなら、是非────私も親子をやり直したいです」

 泣き笑いに近い表情を浮かべてそう言い、私はうんと目を細めた。
『これでリディアの願いを叶えられる』という安堵と、『この世界で新たな家族を見つけられた』という幸福を噛み締めて。
< 43 / 622 >

この作品をシェア

pagetop