お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「今日は本当にありがとう、ルーシー」

 寂しげな笑みを浮かべ、フィリアは一歩後ろへ下がった。
それを合図に、彼女の体は足元からサーッと消えていく。
まるで、砂の城のように。
多分、転移魔法の類いなんだろうが……何の痕跡も残さず、行ってしまうのかと思うと切ない。
『妖精の魔法って、進歩しているなぁ』と感心する余裕もなく、私は悲しみを募らせた。
そうこうしている間にも、フィリアの体は消えていき……やがて、顔だけになる。

「ねぇ、ルーシー────必ず生きて、帰ってきてね」

 最後の最後まで魔王戦のことを……私の身を案じ、フィリアは完全にこの場から姿を消した。
と同時に、結界も解除される。

 ありがとう、フィリア。
自分の命も、この世界も必ず守ってみせるよ。
だから、安心して。

「私には、頼もしい友人達が居るんだから」

 フィリアの居た場所に向かって呟き、私は空を見上げた。
輝く星や月を眺めながら、『フィリアもこの景色を見ているといいな』と考える。

 さてと!黄昏れるのはこの辺にして、リディア達のところへ行こう!
妖精結晶の事とか、魔王の事とか報告しなきゃ!

 『休んでいる暇なんて、ないぞ!』と自分に言い聞かせ、私は踵を返した。
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