お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「私もちょっと狙っていたんだけどね。風魔法の扱い方を記した本なんて、なかなか手に入らないから。でも、一日目に思ったよりお金を使ってしまって……断念せざるを得なかったんだよ」

 『非常に残念だ』と零し、レーヴェン殿下は小さく肩を竦めた。
かと思えば、ふと周囲を見回す。

「ところで、そのアレン小公爵はどうしたんだい?」

 昨日まで自由に生徒会室を行き来していた御仁の姿が見当たらず、レーヴェン殿下は首を傾げる。
『昼から来る予定なのかな?』と思案する彼の前で、兄はおもむろに顔を上げた。

「ウチの両親と一緒に一足早く帰りました。恐らく、魔王関連かと」

「あぁ、なるほど。名前が判明したから、資料を読み漁っているのか。上手く行けば、更なる情報を手に入れられるから」

 たかが名前と思うかもしれないが、魔王の正体は謎に包まれていたため、何かヒントになるかもしれない。
特にグレンジャー公爵家やクライン公爵家は歴史の長い家門だから、ハデスに関する記述が残っていてもおかしくなかった。
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