お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「リディア、早く来い。あと、そこの馬鹿共も」

 半分廊下に出た状態でこちらを振り返り、兄は『何ボサッとしている』と注意した。
『置いていくぞ』と述べる彼を前に、私達は慌てて生徒会室を飛び出す。
やっぱり、猫さんのことが気掛かりで。
しっかり、飼い主を見つけてあげたかった。

「とりあえず、先生方に話を通してどこかに隔離するか。さすがに連れ歩く訳には、いかないからな。あとは地道に聞き込みを……」

「────その猫、見せてもらってもいいかな?」

 捜索の詳細について詰める兄の言葉を遮り、何者かが姿を現した。
それも、瞬きの間に。

「あぁ、やっぱり僕の猫だ。保護してくれていたんだね、ありがとう」

 瞬間移動と言うべき速さで兄の前に立ち、勝手に腕の中を覗き込んだ男性はニコニコと笑う。
呆気に取られる私達を他所に、彼は猫さんを抱き上げた。
ミャーと機嫌よく鳴く猫さんを腕に収め、満足そうに目を細める。
夜空のように真っ暗な瞳は、とても穏やかなのに……感情(温もり)を感じられない。
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