お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「まあ、残念ながら目的は果たせなかったけど────それ以上にいいものを見られたから、良しとしよう」

 そう言って、ハデスは私達を……いや、男性陣を見つめる。
釣られるようにして私も視線を動かすと、困惑顔の彼らが目に入った。

 あっ、そっか……リディアの話、皆の前でしちゃったから。

 意図せず秘密をバラしてしまったことに気づき、私はそっと目を伏せる。
『話につい夢中になってしまい、すっかり皆のことを忘れていた』と思いつつ、複雑な心境へ陥った。
どのような対応をすればいいのか迷っていると、ハデスが私の手を取る。
極自然に……流れるような動作で。

「それじゃあ、僕達はこれで失礼するよ────君達の来訪、楽しみにしているね」

 『待っているよ』と言い、ハデスは私の手に唇を押し当てた。
チュッというリップ音と共に顔を離し、不敵に笑う。
まるで、こちらをからかうかのように。
ペロリと唇を舐めながら身を起こし、彼はこちらに背を向けた。
かと思えば、一瞬で姿を消す。
無論、愛猫のチェルシーと共に。
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