お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 本当に見ていて飽きないな、この二人は。

 『表情がコロコロ変わって面白い』と思いつつ、私はおもむろに足を組む。

「詳しく話すと長くなるから、先に結論だけ言うね────私は校舎裏でのやり取りを盗み聞き……いや、この場合は盗み見かな?していたんだ」

 『口唇を読めばある程度、言葉は分かるからね』と付け足し、ニッコリと微笑んだ。
すると、リディア嬢が間髪容れずに声を上げる。

「それは本当ですか?殿下のお言葉を疑う訳ではありませんが、ここ最近はしっかり対策を立てて密会を隠していたので……いまいちピンと来ないと言いますか」

 『簡単には信じられない』と主張するリディア嬢に、私はスッと目を細めた。

「対策というのは、結界と幻術のことかな?」

「!!」

「悪いけど、それらは私に通用しないよ。だって────『千里眼』を通して、観察していたからね」

 『その程度の対策じゃ、防げない』と説明する私に、リディア嬢はようやく理解を示す。
対策の内容まで言い当てられたため、信じるしかないのだろう。
でも、彼女より警戒心の強いルーシー嬢は納得いかない様子だった。

「確か、『千里眼』って対象をマーキングする必要があるんですよね?」

「ああ、そうだね」

 間髪容れずに肯定すると、ルーシー嬢は僅かに身を乗り出してきた。

「なら、おかしくないですか?だって、私達は何もされていませんよ?体に触れるのはもちろん、私物にだって」
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