お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「ねぇ、私に君の役に立つチャンスをくれないかい?」

「そ、れはどういう……?」

 困惑気味に眉尻を下げる彼女に、私はクスリと笑みを漏らす。
ようやく、彼女の素に触れられた気がして嬉しかったのだ。
心が満たされていく感覚を覚えながら、私はおもむろに身を起こす。

「恐らく数日以内に皇城から呼び出しを受け、憑依について話すことになると思う。魔王も絡んでくる以上、無視は出来ないからね。でも、君が望むなら─────事実を誤魔化してあげよう」

「「!?」」

「憑依の件がどうであれ、私達のやることは変わらないからね。ちょっとくらい、都合のいいように話したっていい筈だ。ねっ?」

 動揺を示す女性陣に向かって呼び掛け、私は目を細めた。
と同時に、手を伸ばす。

 あと少し……あと少しだけ、彼女の素に触れたい。
もっと弱いところをさらけ出してほしい。
どうせ、私は君を手に入れられないのだから……今だけは私を頼って、縋って、依存してほしい。

 デビュタントパーティーの頃から芽生えていた感情が拗れに拗れ、私の欲を刺激した。
この無垢で愛らしい女の子を歪めたい衝動に駆られる中、彼女は────

「ごめんなさい、レーヴェン殿下。せっかくの申し出ですが、遠慮いたします」

 ────見事、私の期待を裏切った(欲望を打ち砕いた)
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