お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「おや────花火だね」

「あっ、本当だ」

 仕切りのカーテンを開けるレーヴェン殿下の前で、ルーシーさんは『残念』と肩を竦める。
アントス学園の学園祭は閉会式がない代わりに、花火を打ち上げているから。
つまり、もう終わりということ。

「結局、最終日の思い出は作れませんでしたね」

「魔王のせいで、それどころじゃなかったからね。まあ、でも────」

 そこで一度言葉を切ると、レーヴェン殿下はこちらを振り返った。

「────きっと、今日の出来事もそのうち笑い話になるさ」

 確信の滲んだ声色でそう言い、レーヴェン殿下は穏やかに微笑む。
と同時に、一際大きな花火が空へ打ち上げられた。
視界いっぱいに広がるソレを前に、私は

「そうなると、いいですね」

 と、呟く。
────こうして、それぞれがそれぞれの想いを抱えたまま学園祭は幕を下ろした。
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