お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『もしや、そういう血筋?』と考えつつ、俺はニクスの言ったようなリディアを思い浮かべる。
でも、全く想像がつかない。
俺の知っている彼女は優しくて、穏やかで、朗らかな子だから。
『ほぼ真逆じゃん』と苦悩していると、ニクスはふと天井を見上げる。

「時々物欲しそうな目でこちらを見ることはあれど、話しかけてくることはなかったし、笑顔なんて……見たこともなかった」

 昔を思い出しているのか、ニクスの表情はどこか暗かった。
透き通った瞳に葛藤を滲ませ、そっと瞼を閉じる。

「それが突然、百八十度変わったんだ。まるで、別人みたいに」

 身近に居たからこそ分かる違和感を述べ、ニクスは強く手を握り締めた。
まるで、何かを堪えるように。

「この変化がもし憑依によるものなら、納得出来る」

 重々しい雰囲気でそう言い切り、ニクスは目を開ける。
透き通るような月の瞳は真っ直ぐで、憑依を確信している様子だった。
まだ本人から断言された訳でも、証拠を見つけた訳でもないのに……。
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