お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 そうだ、俺はあのとき確かに『リディアの笑顔と生活を守る』と誓った。
今こそ、その約束を守るべきじゃないか?
事情が変わったからと言い訳して、全部放り出すのか?
苦しんでいるあいつを見て見ぬふりして?

 泣いている彼女の横を素通りしていく自分を想像し、俺は戦慄した。
と同時に、腹を立てる。
『そんなこと出来る訳ないだろ!』と。

「……答えはもう出ているじゃねぇーか、とっくの昔に」

 自分にしか聞こえないほど小さな声量で呟き、俺は顔を上げる。
もう自分の中に迷いはなかった。
あるのは確固たる意志と覚悟だけ。

 あいつが幸せになれない世界なんて、有り得ない。
だから、俺は────

「────全部知って、理解して、通じ合って……それで、あいつの傍に居たい。何を犠牲にしてでも、守り切りたい」

 本心からそう思う俺は、グッと手を握り締めた。
『必ず誓いを果たす』と心に決め、勢いよく席を立つ。
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