お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「あ、明日にしておく」

「賢明な判断だな」

 『もし、行ったら教師に即報告していた』と明かし、ニクスは一つ息を吐いた。
かと思えば、書面に再度視線を下ろす。

「それより、早く仕事しろ」

「えっ?何で?別にそんなに焦らなくても、大丈夫だろ」

 『また後日やればいい』と意見する俺に、ニクスは心底呆れたような表情を浮かべた。
『お前は本当に……何も分かってないよな』とでも言うように(かぶり)を振り、額に手を当てる。

「近々リディアの件で呼び出しを受ける筈だから、今のうちにやっておいた方が楽だぞ。まあ、強制するつもりはないが」

 『あくまで忠告だ』と告げると、ニクスは仕事に戻った。
黙々とペンを動かす幼馴染みの前で、俺はハッとする。

 確かに呼び出しを受けた時、生徒会の仕事が残っていたら厄介だな。
最悪、『リエートくんは抜きでやろう』ってなるかもしれないし……俺はニクスと違って、赤の他人だから。
生徒会の仕事に支障を(きた)してまで、参加させようとはしない筈。

「お、俺もやる!」

 『自分だけ後日報告とかになったら、嫌だ』と思い立ち、ペンを取った。
そして、話し合いに同席したい一心で書類を片付け────気づけば、朝を迎える。
徹夜したおかげか、自分に割り振られた仕事の八割は何とか終わらせられた。
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