お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 肩に載った大きな手と真っ直ぐな瞳を交互に見つめ、私は小さく深呼吸。
『大丈夫』と自分に言い聞かせ、体ごと後ろへ向けようとした。
その瞬間────

「「リディア(嬢)……!」」

 ────今度は両手を引かれた。
突然のことに驚いて踏ん張れなかった私は、少し前のめりになる。
が、何とか転倒は回避した。
『危ない危ない』と肝を冷やす中、前に立つ二人は厳しい表情を浮かべる。

「ニクス様、リエート様。リディアに何の用ですか?」

「話し合いは明日の予定だよね?なのに、どうして接触を?」

 『例のことなら明日話すよ』と言い、レーヴェン殿下は兄の手をそっと下ろす。
その横で、ルーシーさんもリエート卿の手を叩き落とした。

「あの、お二人とも……私は大丈夫ですから。覚悟は出来ています」

 『お気持ちは嬉しいですけど……』と苦笑しつつ、私はレーヴェン殿下とルーシーさんを宥めた。
帝国や神殿の今後を担っていく二人と、それを支える兄達が仲違いすれば不味いことになる。
なので、穏便に済ませたかった。
『お二人は寮に戻ってください』と促す中────何故か、後ろから溜め息が聞こえてくる。
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