お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「四人とも、待たせてすまない。そろそろ、話し合いを始めよう」

 そう言って、応接室に足を踏み入れたのは────この場をセッティングした張本人、ノクターン皇帝陛下だった。
慌てて立ち上がって挨拶する私達に、彼は手を挙げて応じ、座るよう促す。
『あくまで非公式の場なんだから楽にしていなさい』と告げ、歩を進めた。
その瞬間────ノクターン皇帝陛下の背後から、私達の両親が姿を現す。
浮かない顔で陛下の後に続く二人に、私はぎこちなく微笑んだ。

「ご、ごきげんよう」

「「ああ(ええ)……」」

 両親は『頷くのがやっと』という様子で返事し、私の後ろを通り過ぎる。
そして、ノクターン皇帝陛下の着席を待ってから、自分達も三人掛けのソファに腰を下ろした。
まるでお通夜のような空気が流れる中、私はふと母の手元を見る。

 良かった。ちゃんと持ってきてくれたのね。

 手紙で頼んでおいたものを目で確認し、私は少しホッとする。
だって────この箱がなければ、鍵を持ってきた意味がないから。
対となる二つの存在が揃い、初めて役目を果たすのだ。
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