お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「さて、まずは魔王が現れた当時の状況を詳しく話してくれるかな?」

 こちらに考える時間を与えるためか、ノクターン皇帝陛下は敢えて前振りを挟む。
そんなのもう聞き飽きている筈なのに。

 私の周りに居る人達は、本当にみんな優しいわね。

 またちょっと泣きそうになるもののグッと堪え、私は質問に答える。
もちろん、皆で。

「なるほど。レーヴェンから粗方事情は聞いていたが、全員から話を聞いてみて良かった。やはり、人によって感じ方や捉え方は異なるからな」

 『助かった』と語るノクターン皇帝陛下は、アメジストの瞳をスッと細めた。
と同時に、こちらへ視線を向ける。

「では、次に────憑依の件を話してもらえるかな?リディア嬢」

「はい」

 間髪容れずに首を縦に振り、私は席を立った。
すると、隣に座るルーシーさんや正面に座るリエート卿から気遣わしげな視線を向けられる。
が、私はもう本当に大丈夫だ。
だって、昨日たくさん泣いたから。それにいっぱい勇気を貰った。
これ以上ないくらい、いいコンディションだ。

 暗い表情(かお)の両親は気に掛かるけど、頭は凄く冴え渡っている。
それに猶予をくれたおかげか、気持ちも大分落ち着いてきた。

 『これなら、冷静に話せそうだ』と考え、私は前を向く。
と同時に、背筋を伸ばした。
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