お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 な、泣かせるつもりはなかったのだけど……!どうしましょう!?

 オロオロと視線をさまよわせ、私は困り果ててしまった。
自分の立場的に慰めていいのか、どうか分からず……『あの』とか、『えっと』とかしか言えない。
────と、ここで母が私の手を引いて歩き出した。
そして小公爵の傍に来ると、そっと彼の肩を抱き寄せる。
もう一方の手は私の腰に回されていた。

「イヴェール。ほら、貴方も」

「ああ」

 母に促されてこちらへ向かってくる父は、私の横で足を止める。
と同時に、私と小公爵のことを強く抱き締めた。

「リディア、ニクス。改めて、本当にすまなかった。これからは決して家庭のことから、逃げない。だから、四人で家族となることをもう一度考えてくれないか?」

「もちろん、無理強いはしないわ。考えた結果無理なら、ソレを受け入れる。正直、『四人で家族になりたい』というのは私達のワガママでしかないから」

 『今更、虫が良すぎる話でしょうし』と述べ、母はそっと眉尻を下げた。
その瞬間、小公爵がゆっくりと顔を上げた。
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