お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「まあ、それはそれとして……」

 カチャリと眼鏡を押し上げ、僅かに身を乗り出す兄はルーシーさんへ視線を向けた。
何か聞きたいことでもあるのか、気難しい表情を浮かべている。

「特待生の話を聞く限り、リディアの憑依はゲームにもなかった展開なんだよな?何故、いきなり魔王はそんなことを?」

 『明らかにおかしいだろ』と指摘する兄に、ルーシーさんは困ったような顔でこう答えた。

「それは私にも分かりません。ただ────魔王は毎回違う行動を取っていたから、ゲームのシナリオにこそ憑依展開はなかったものの、設定上は有り得る……かも?」

「どういうことだ?」

 『もっと詳しく話してみろ』と促す兄に対し、ルーシーさんは躊躇いがちに頷く。

「えっと、シュミレーションゲームは基本プレイヤー(ヒロイン)の選択によって、変化していくものなんだけど、魔王ハデスはそんなのお構いなしというか……リセットする度、全く違う行動を取るんです。ゲームだからある程度パターン化されているとはいえ、こんなに自由奔放なキャラはなかなか居ない」

 『この手のゲームでは、特に』と述べつつ、ルーシーさんは腕を組んだ。
かと思えば、ちょっと険しい顔つきになる。
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