お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「そのせいか、ファンの間では神出鬼没の仮面野郎ってあだ名が付いているんですよね。シナリオの大筋はほぼ同じなんだけど、魔王のせいで結構予定を狂わされることがあるから。私も欲しかったアイテムを取り損ねたり、攻略対象者の好感度が下がったりしましたもん」

 『一体、どれだけ苦労したと思って……』と零し、ルーシーさんはギリギリと奥歯を噛み締めた。
どうやら、魔王には前世から因縁……というか、恨みがあるらしい。
『許すまじあの野郎……』と吐き捨てながら、ルーシーさんは一つ息を吐く。
と同時に、気持ちを切り替えた。

「まあ、とにかくそういうキャラだから幼いリディアに接触して、憑依を教えてもおかしくないってこと。そう考えれば、納得いく部分もあるし……」

「納得いく部分って?」

 何の気なしに聞き返すリエート卿に、ルーシーさんは少しばかり言い淀む。
どこか思い詰めたような表情を浮かべ、両手を強く握り締めた。

「実はゲームのリディアと違って、今のリディアは一つギフトが足りないんです」

「「「!!」」」

 雷にでも打たれたかのような衝撃を受け、兄達は一様に固まった。
ゆらゆらと瞳を揺らす彼らの前で、ルーシーさんは顎に手を当てて考え込む。
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