お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 泣き腫らした目でこちらを見つめる彼は、嗚咽を解消するように大きく深呼吸する。
と同時に、肩の力を抜いた。

「リディア」

「は、はい」

 反射的に姿勢を正して返事すると、小公爵はスッと目を細める。
月の瞳に確固たる意志を宿しながら。

「────今まで悪かった」

「……えっ?」

 まさか謝罪などされるとは、思っておらず……パチパチと瞬きを繰り返す。
なかなか現状を呑み込めずにいる私の前で、小公爵は少し乱暴に涙を拭った。

「魔力暴走の件やリディアを逆恨み(・・・)した件、諸々全部謝る。本当にすまなかった」

 深々と頭を下げ、謝罪する小公爵はどこかスッキリした様子だった。
まるで、心のつっかえが取れたような……そんな感じ。

「正直、ただの八つ当たりだったのは自覚している。ただ、上手く気持ちに折り合いを付けられなくて……リディアを恨むのが一番手っ取り早い解決方法だったから、そうしていた」

 小公爵は過去の行いを悔やむように、強く手を握り締める。
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