お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「そうか……君は本当に優しい子だね。こんなことを言ったら、怒られてしまうかもしれないが────リディア嬢に憑依したのが、君で良かったよ」

「!」

 憑依したことを疎まれこそすれ、喜ばれるとは思ってなかったため、思わず泣きそうになった。
が、(すんで)のところで何とか堪える。
グッと唇に力を入れる私の前で、ノクターン皇帝陛下は穏やかに微笑んだ。

「先程の態度について、謝罪させておくれ。私が幼稚だった。本当にすまない」

「い、いえ……そんな……!陛下は当たり前の疑いを持っただけで……!私こそ、ムキになってしまって申し訳ございません!」

 慌てて頭を下げる私に、ノクターン皇帝陛下は『()()い』と笑う。
────と、ここで昼の十二時を知らせる鐘が鳴った。

「おっと……もうこんな時間か。そろそろ、公務に戻らなければ」

 急遽予定を空けてもらったためこのあと立て込んでいるのか、ノクターン皇帝陛下は急いで席を立つ。
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