お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『なんだか、変な感じ』と思いながら、私はリエート卿と共に廊下へ出た。
話し合いのために人払いされていた影響か、ここには私達しか居ない。
シーンと静まり返った廊下で、リエート卿は不意に立ち止まった。
かと思えば、私の前に躍り出る。
『えっ?』と声を漏らして困惑していると、彼は手を握ったまま跪いた。

 こ、これは一体どういう……?

 行動の真意が掴めず、私はパチパチと瞬きを繰り返す。
戸惑いを隠し切れずにいる私の前で、リエート卿は僅かに表情を強ばらせた。
何やら緊張しているらしく、こちらを見つめるサンストーンの瞳は真剣味を帯びている。

「あの、さ……」

「はい」

「名前、聞いてもいいか?」

「えっ?それなら、もう知って……」

「いや、違う違う。そっちじゃなくて────」

 慌てた様子で首を横に振り、リエート卿はじっと私の目を見つめた。

「────お前自身の名前が知りたいんだ」
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