お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「でも、リディアの気持ちや考え方に触れて目が覚めた。いや、自分が恥ずかしくなった。自分より幼くか弱い()が、こんなに家族のことを思いやっているのに……僕は自分のことばかり。()として、情けない限りだ」

 フルフルと小さく(かぶり)を振り、小公爵はゆっくりと顔を上げる。
と同時に、こちらを真っ直ぐ見つめた。

「だから、これからは家族のことをちゃんと思いやれるような人間になる」

 そっと自身の胸元に手を添えて宣言すると、小公爵は少し身を乗り出す。
どことなく、緊張した面持ちで。

「その第一歩として────きちんとリディアの兄になりたい。僕を兄妹として、受け入れてくれないか?」

 月の瞳に僅かな不安と期待を滲ませ、小公爵はじっとこちらの反応を窺った。
『さすがにちょっと都合が良すぎるか……』と思い悩む彼を前に、私は少しだけ泣きそうになる。
あまりにも、嬉しくて。

 ねぇ、リディア。貴方の願い────叶えられそうだよ。
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