お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「アカリ・ヤマシタです」

「そうか」

「じゃあ、とりあえずアカリって呼ぶわね」

「はい」

 間髪容れずに頷くと、母は少し嬉しそうに頬を緩めた。
『名前で呼んでいいのね』と目を細め、噛み締めるように私の名前を言う。
それは呼び掛けるというより、何度も口に出して脳に刻み込んでいるといった方が的確だった。
恐らく、私とリディアを切り離して考えようとしているのだろう。

「あの……それで、憑依の件なのだけど────」

 恐る恐るといった様子で話を切り出す母は、ギュッと胸元を握り締めた。
かと思えば、苦しげに顔を歪める。

「────本当にごめんなさい」

「えっ?」

 予想と全く違う反応を返され、私は思わず硬直した。
訳が分からず呆然としていると、今度は父が頭を下げる。

「私達家族の事情に巻き込んだこと、心より謝罪する」

「それから、リディアのために生きてくれてありがとう。今までずっと辛かったでしょう?相談する相手も居なくて、一人で頑張るしかなかったでしょうから」

 憑依の件を不問にするどころかこちらの苦労を思い、気遣ってくれた。
『これは夢なのでは?』と疑いたくなるような対応の数々に、私は目を丸くする。
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