お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『タイミングからしてそれしかない』と確信しつつ、私は少し背筋を伸ばした。

「なんでしょう?」

 意を決して話の先を促すと、兄は体ごとこちらに向ける。
そして、伏せ目がちにこちらを見つめた。

「僕はお前が本物のリディアじゃないと……妹じゃないと知って、正直────ホッとした」

「えっ……?」

 予想すらしてなかった言葉に、私は心底困惑した。
『何がどうなっているの……?』と戸惑う私を前に、兄は自身の手を見下ろす。

「半分とはいえ、血の繋がった妹にこんな感情(・・・・・)を抱いているなんて、言えなかったからな。でも、そうじゃないなら……お前が本当に他人なら、この気持ちを認められる」

「えっと……?」

 勝手に話を進めていく兄についていけず、私は『つまり、どういうこと?』と頭を捻った。
────と、ここで兄が距離を詰めてくる。
いつもよりずっと真剣な顔つきでこちらを見つめ、彼はそっと頬に手を添えた。
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