お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「────アカリ、ずっと前から好きだった。妹としてではなく、女としてお前を見ていた」

「!?」

 低い声で囁かれる甘い言葉に、私は頭の中が真っ白になった。
『う、嘘……?』と混乱する私を前に、兄はコツンと額同士を合わせる。

「心の底から、愛している」

「っ……!」

 至近距離にある熱を帯びた瞳に、私は目を白黒させた。
混乱のあまり何も言えずにいると、兄はおもむろに額を離す。

「今すぐ、僕を男として見るのは難しいと思う。だから、少しずつでいい……僕と肩を並べて歩む未来も、考えてくれないか?」

 懇願にも似た声色で頼み込み、兄は切なげな表情を浮かべる。
普段は堂々としていて、迷いがないのに……今は少しでも力を加えたら、崩れてしまいそうなほど脆く見えた。
『それだけ真剣なんだ』と痛感する中、私はそっと眉尻を下げる。
彼の気持ちと、どう向き合えばいいのか分からなくて……。
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